各界からのコメント
この映画は、大清帝国(現中国の前身)をつくった、満洲族の最後の叫びである!
藤原良雄(藤原書店 店主)
満洲族の血を引く金大偉さんが、自分のルーツを求めて、祖先伝来の宗教であるサマンの調査をしていることはずいぶん前から聞いていました。映像を見て、その叙情性に深く感銘を受けました。死語と思っていた満洲語の話者の語りや、サマンの歌や踊りを記録したのは学術的にも価値がありますが、取材対象に共感を持って寄り添い、彼らの現状を淡々と語る金さん自身の中国語によるナレーションが、映像の価値を一層高めています。宮脇淳子(東洋史家・学術博士)
満洲シャーマンが金大偉氏を通じ、満洲王族ではなく人類を代表して本映画に託した中味であろう。
七沢賢治 (一般社団法人 白川学館 代表理事)
異国の地から、今の我々に大切な何かが告げられる。大陸の遠方から、文明選択の鍵が示される。
能澤壽彦 (古層文化論)
我々人類の細胞に記録された情報が蘇る機会を与えてくれます大倉正之助(能楽囃子大倉流大鼓、重要無形文化財総合認定保持者)
金大偉氏の映画「Lost Manchurian Shamans/ロスト マンチリア サマン」は、危機的な状況にあっても雄雄しく生き続ける満州部族の本質を描きだしている。古(いにしえ)のシャーマンの慣習を中心に、彼らの言語、文化、音楽、儀式、宗教、それら全てが息づいている。金氏は近代化に直面し、存続が危ぶまれる慣習を守りぬこうとする人々の苦闘を描いている。天と地、そして文化、言語、環境の喪失が益々進む世界に住む人々、この3つの力にどうすればよりよきバランスを見つけることができるのか、考えさせてくれる。
ブルース・アレン(清泉女子大学教授)
大連から国境の町満州里へと列車を乗り継いで旅をした。広大な大地に、コーリャン畑の穂が風にたなびく。この大地を満州の勇者たちは駆け抜けたに違いない。そして清という強国を打ち立てた。このドキュメンタリーは、滅びゆく満州族のシャーマンの物語である。船乗りたちが海の神を祈るように、厳しい自然との調和を求めて騎馬民族は大地の神に祈るのだ。
松本榮一(写真家)
さすが満洲族の血を引く監督の作品だ。彼にしかなし得なかっただろう。消え去りつつあるアニミズム的祈りに関する貴重な映像を何年にもわたる地道な取材でまとめあげた。民俗・民族学的資料価値も高い、必見のドキュメンタリー。
大沢知之( 音楽コンサートプロデューサー)
神樹と共に素朴に生きながら、満州という民族の古の精神を支えてきたマンチュリア・サマン。そして、彼らの伝統と共に失われていく満州の言語と文化。金監督が渾身の思いを込めたこの映画に、ロスト・マンチュリア・サマンの魂が永遠のいのちとして生き残ることでしょう。
アルタンジョラー(京都大学人間・環境学研究科博士課程)
人と人との「同期」は存在する。人と祖先との「同期」も存在する。さらに人と自然との「同期」も存在する。心理学の巨人であるカール・ユングの「シンクロニシティ」を持ち出すこともなく、かつての人々はそれを感知し、また活用していたのである。科学や合理性という鎧のような衣に包まれ現代に生きる私の、その心の深淵に忘れ置き去られていた鋭敏だが肌触りがよい感覚を…、この作品は優しいまなざしで呼び起させてくれた。ドキュメンタリーとアートとが融合した稀有の作品である。簡憲幸 (彩鳳会代表)
原初を求める旅はどこかほろ苦い。あてのない風景のなか金監督は粘り強い取材で記録を積み重ねていく。そして手太鼓が響く。腰の鐸鈴がじゃらりと鳴り出せば、失われた何かが呼び覚まされる。世界の縁で喪失の悲しみはあっても人は宇宙の中心を予感する。そんなことを知らせてくれる映画だ。
松井不二夫(ライター、神秘主義批評)
金大偉さんの情熱的な調査により、21世紀の満洲族にサマンの伝統が確かに生き残っているのを見ることができて嬉しかったが、268年間にわたってシナ(=チャイナ)全土を支配し、シナ史上最大の版図を築いた満洲族の後裔が、このように市井にうずもれた生活をしているということを眼前にして、あらためて歴史の非情さを痛感せずにはいられない。
岡田英弘(歴史家・東京外国語大学名誉教授)
神話学から見ていくと,国や文明の最初の方には、ますます音楽と儀式の一体化したものが存在を見せます。言葉よりも前に音楽があります。洋の東西を問わず、文明や国家制度の起源に近づくと、音楽と儀式の混淆が現れてくると言います。例えばヘラクレスのような典型的にギリシア神話的神話素を追って行くと不思議なことに北方狩猟民族のシャーマニズムの影が射してくると言います。原初的な音楽になればなるほど、リズムが宇宙の生命を表している。リズムという言葉は水面の波動からきているのでしょうが、満州シャーマンのリズムを刻んでいるのは腰鈴だというのが嬉しい。人間も宇宙も基本的なリズムは歩くこと(もしかしたら騎馬民族の場合には馬の歩行)に規定されているでしょうから。リズミカルに移動する人間や自然が留まって静止する場所の木(神樹)や山(聖なる山)だったりが、人間共同体の中心(それは同時に人間の生死を司る場です)を表現するとしても、その中心性を表現するのは木の梢や山の頂から響き渡る音楽です。思いがけなく素敵な、アジア的音響空間でした。
臼井隆一郎 (東京大学名誉教授)
ロスト・マンチュリア・サマン」は、世界的にも長く残る記録映画だと思います。実際のシャーマンへのインタビューや、お祭の場面、太鼓などによる儀式は印象的でした。生活の中の伝統行事や、歴史的な経過、自然の美しさ・過酷さなども丁寧に説明されていて、学ぶところが多い2時間です。
中川田鶴 (比較文化研究者)
この満洲族の生み出す音や儀礼・神話を描写する詩的な映像が構築する美学は、満洲サマンの原点に迫り、その“民族としての自己創造”の軌跡を写し出す。
黒川五郎 (アーツフィロソファー)
同化政策によって失われていく言語と文化について考えさせられる貴重な証言。自らも満洲族の末裔として、「これを撮って遺していかなくては」という監督の「血の使命」が伝わってくる、魂の籠もった映像だと思った。
後藤光弥(コンテンツ プロデューサー)
満洲族シャーマン文化としての誇りが、見事に美しく再生された、奇蹟の作品である。
斉藤亘弘 (アート・プロデューサー)
満州はシャーマニズムの発祥地とも言われており、『ロスト・マンチュリア・サマン』からは韓国・日本を含む東北アジアのシャーマニズムの原形をうかがうことができます。また金大偉氏の素晴らしい音楽が、共同体の存続と繁栄を願う人々の普遍的な気持ちをより強く伝えてくれます。
金香淑(日本大学講師)
金大偉の、自身のルーツを探り、生涯のテーマを追求した渾身の映像作品に、私はおおいに期待したい。
倉林 靖(美術評論家)
満州に伝わるシャーマニズムとその土地の言葉である満州語が失われつつあることを、とうとうと語る金さんのナレーションが心に沁みました。古くは地球のどこでも、自然も宗教も私たちの生活の一つであっただろう。その営みがあまりに変化し、失われていく大切な何かを感じさせてくれる、今というタイミングに記憶しておきたい映像です。
村上 依久子(NPO法人ビ・ライト代表理事)
世界中で国や地域が増える一方で、減りつつある言葉や文化。満洲に古来からあった文化も、消滅寸前であり、映画という文化の中で「ドキュメンタリー」として生き続けられることは救いだと思う。この映画を見て、満洲を故郷と感じる人が居たならば、それは金監督のナイーヴなメッセージであり、他では得られない大きな価値が本作品の中に隠れています。
石井利明(EKTA inc.代表・音楽プロデューサー)